山の道で出会う自分への厳しい声 マインドフルネスで優しく受け止めるヒント
自然の中を歩く登山やトレイルは、私たちに様々な体験をもたらしてくれます。雄大な景色、心地よい疲労、そして時には自分自身の内面と向き合う機会も含まれます。特に山道を歩いていると、普段は意識しないような「内なる声」が聞こえてくることがあります。それは、自分自身への厳しい評価かもしれませんし、不安や焦りの声かもしれません。
この記事では、登山という体験を通して湧き上がるこうした内面的な声に、どのようにマインドフルに気づき、そして優しく受け止めることができるのか、その具体的なヒントをお伝えします。
山道で気づく「内なる声」の正体
日々の生活の中で、私たちは多くの役割をこなし、様々な期待に応えようとしています。その中で、自分自身の「こうあるべき」という基準や、他者との比較から生まれる自己評価を内面に抱えがちです。
山道を歩くという非日常の身体活動は、心身にいつもと違う負荷をかけます。息が上がる、足が重い、ペースが遅い、周りの人に追い抜かれる。そんな状況は、普段抑圧していたり、無意識に流していたりする「内なる声」を表面化させやすいものです。
例えば、 * 「こんなに疲れるなんて、体力がないな」 * 「もっと早く歩けないとダメだ」 * 「他の人は余裕そうだ、自分は情けない」 * 「休憩したいけど、弱いと思われたくない」
こうした声は、しばしば自分自身を否定したり、能力を疑ったりする「厳しい声」として現れます。登山は、目的地へ向かう身体的な道のりであると同時に、こうした内なる声と出会う心理的な道のりでもあるのです。
その声に「気づく」第一歩
マインドフルネスの実践は、こうした内なる声に気づくことから始まります。重要なのは、「良い声」「悪い声」と判断するのではなく、ただ「声が聞こえているな」と、ありのままに気づくことです。
山道を歩きながら、心の中で何かを考えている、あるいは自分自身を評価していることに気づいたら、一度立ち止まるか、ペースを緩めてみましょう。そして、次のようなステップで気づきの練習をしてみます。
- 思考や感情にラベルを貼る: 心の中で聞こえる声や、それに伴う感情に簡単なラベルを貼ってみます。「あ、これは自分を責めている声だな」「これは不安な気持ちだ」といったように、距離を置いて認識する練習です。
- 呼吸に意識を戻す: 気づきが得られたら、静かに数回、自分の呼吸に意識を戻します。吸う息、吐く息の感覚に注意を向けます。これは、湧き上がった声や感情から少し離れ、今この瞬間に意識を繋ぎ止めるための基本的な実践です。
- 身体感覚に注意を向ける: 足裏の感触、風が肌をなでる感覚、筋肉の張りなど、今の身体が感じていることに意識を広げてみましょう。これにより、頭の中で繰り返される声から注意をそらし、五感を通して「今ここ」に戻る助けとなります。
この段階では、声の内容を変えようとしたり、打ち消そうとしたりする必要はありません。ただ、その声が存在していること、そしてそれが自分自身ではない「思考」や「感情」であることに気づくことが大切です。
その声に「寄り添う」実践
内なる声に気づけるようになったら、次にその声に「寄り添う」ことを試みます。これは、その声に同意するということではありません。否定もせず、かといって無視するでもなく、ただそこに耳を傾け、優しさを持って接するということです。
具体的な実践としては、以下のようなアプローチがあります。
- 声の存在を認める: 「あ、また『遅い』って声が聞こえるな」と、その声があることを静かに認めます。まるで、遠くから聞こえる音を聞くかのように。
- 声の背後にあるものに目を向ける: その厳しい声の裏には、どんな気持ちがあるでしょうか。「もっと成長したい」という願望かもしれませんし、「失敗したくない」という恐れかもしれません。声の表面的な内容だけでなく、その根底にある満たされないニーズや感情に目を向けてみます。
- 自分自身に Compassion (慈悲) を向ける: 親しい友人が同じような状況で苦しんでいたら、あなたはどんな言葉をかけるでしょうか。おそらく、励まし、労い、共感の言葉をかけるはずです。同じように、自分自身にも優しさの言葉をかけてみましょう。「疲れているんだね」「頑張っているね」「ゆっくりで大丈夫だよ」といった、ありのままの自分を労う言葉を心の中で唱えてみます。
- 声をスペースに解き放つ: 思考や感情は、雲のように流れていく一時的なものです。その声に巻き込まれず、まるで青空に浮かぶ雲を眺めるように、声が湧き上がり、そして消えていくのを許容します。
一歩一歩を「受け入れる」
山道での内なる声への気づきと寄り添いは、最終的に自分自身をありのままに「受け入れる」ことへと繋がります。
ペースが遅くても、疲労を感じていても、他の登山者と比べて「劣っている」と感じることがあっても、それは今の自分自身の状態です。その状態を否定したり、責めたりするのではなく、「これが今の自分なんだな」と静かに受け入れてみます。
そして、目の前にある「今の一歩」に意識を集中します。足が地面に着く感触、身体の動き、呼吸のリズム。過去の後悔や未来の不安、他者との比較から一度離れ、「今、ここ」でできること、つまり「この一歩を丁寧に踏み出す」ことに意識を向けます。
たとえ短い距離でも、ゆっくりとしたペースでも、今の一歩をマインドフルに踏み出すことは、自分自身のペース、自分自身の限界を尊重し、受け入れる実践となります。
まとめ
山道で出会う自分への厳しい声は、時に私たちを立ち止まらせ、自信を揺るがすかもしれません。しかし、マインドフルネスの視点を持つことで、これらの声は自己否定の源ではなく、自分自身の内面を深く理解し、優しさを向ける機会へと変わり得ます。
登山という体験を通して、湧き上がる思考や感情に気づき、判断を手放し、自分自身に寄り添う練習を重ねることは、山道を心地よく歩むだけでなく、日常における自己受容や心の平穏にも繋がっていくでしょう。
自然の中で、ありのままの自分自身に優しく向き合う時間。山の道は、あなたにとって、そんな貴重な学びの場となるはずです。